ワイヤーのない世界が到来するまで、ワイヤレス給電技術の系譜

Until the world with no wires comes, a genealogy of wireless charging technology

日々発展する現代の科学は、私たちにとって遠い未来のことのように思えますが、ふとそのテクノロジーが生活の中で身近に感じられる時があります。スマートフォンを持って行かないと道に迷いがちだったり、バス停でぼんやりスマートフォンの時刻表をチェックしていたり、スマートフォンがクラウドの写真を時系列で編集して映像にしてくれたりする、そんなときです。考えてみると、私たちが実感するテクノロジーはどれもスマートフォンによるものです。シンプルで便利な現代の生活を謳歌するために私たちに本当に必要なものはスマートフォンだと言えるでしょう。

デジタル中毒者の救い、ワイヤレス給電技術

いつの間にか「機械」というよりは私たちの体の一部になってしまったスマートフォンですが、まだある種の隔たりを感じることがあるのは、まさに充電が必要なときです。充電なしで永遠に私の体の一部であるかのように動いたらいいのに、という願いは身勝手かもしれませんが、そんな、きりのない願いが技術を発展させるのかもしれません。そして、現在の私たちにとって最も重要な技術トレンドは、コードなしでの給電、すなわちワイヤレス給電になりました。ただ載せるだけで高速充電できたらいいのに、という便利さへの願いを的確に反映するこの技術は、一体いつ、どのようにして開発されたのでしょうか?

ワイヤレス給電の原理を発見する、マイケル・ファラデー (Michael Faraday、1791 – 1867)

1831年、イギリスのマイケル・ファラデーは、ワイヤレス給電の原理を発見しました。一般にファラデーの電磁誘導の法則 (Faraday's laws of electrolysis) と呼ばれ、電気現象の基礎となる法則の一つです。コイルに繰り返し磁石を近づけたり遠ざけたりすると、コイルに電圧が発生します。言い換えると、電圧は、磁界が時間とともに変動するときに発生するのです。これを時変磁場 (time-varying field) といいます。ファラデーは基本的な電磁誘導の法則を発見したのですが、この法則を応用してワイヤレス通信、ワイヤレス電力伝送の基礎を築いたのは、オーストリア出身の科学者、二コラ・テスラでした。

ワイヤレスで全世界に電気を供給する夢をみる、二コラ・テスラ (Nikola Tesla、1856 - 1943)

二コラ・テスラは、1890年代から1906年まで多くの時間と努力を投資し、電気から高周波を作って発信し受信装置で受け取って再び電気に変えるという方法で、ワイヤレス電力伝送を可能にしました。彼はついに、数十cm離れたネオン灯にワイヤレスで電力を送って電気をつけることに成功しました。非接触給電方式と呼ばれるこの方式の原理は、まさにファラデーの電磁誘導の法則を応用したものです。私たちの生活と密接したワイヤレス給電にあてはめて理解してみましょう。スマホの充電器に電流が流れると周辺に磁場が発生し、発生した磁場の影響圏内にスマホが入るとスマホが充電される、というものです。たゆまぬ研究と実験を通じてワイヤレス電力伝送を可能にした彼は、初めてワイヤレス給電を実現した科学者として知られています。

ワイヤレス給電技術が花開いた1990年代

二コラ・テスラのワイヤレス給電の実現後、1964年にアメリカのウィリアム・ブラウン(William C. Brown、1916 - 1999) は、2.45GHzのマイクロ波を使って無燃料ヘリコプターにワイヤレス電力を供給することに成功しました。こうした研究は、1979年にアメリカ航空宇宙局 (NASA、National Aeronautics and Space Administration) とエネルギー省の宇宙太陽光発電所プロジェクトに引き継がれ、本格的な研究開発がスタートしました。それ以降、ワイヤレス給電技術はどのように進歩してきたのでしょうか? 現在まで研究されてきたワイヤレス給電は、大きく3つの方式に分けることができます。すなわち、電磁誘導磁界共鳴電磁波の方式です。

ワイヤレス給電の3つの方式

電磁誘導方式のワイヤレス給電は近距離用ですスマホ、ノートパソコン、電気自動車に適用され、人体に無害でとても効率的です。日常的にスマートフォンを充電している私たちにとって最も身近な方式だといえます。2008年、これを研究するワイヤレスパワーコンソーシアム (Wireless Power Consortium、WPC) ができました。WPCは、個人向け電子機器のワイヤレス給電分野で「Qi」という国際標準を制定しました。Qi認証を受けた製品は、全世界どこでも安全かつ便利にワイヤレス給電を行うことができます。スマートフォンのワイヤレス充電機能は、電磁誘導方式が最も有効に応用された例です。ただし、電磁誘導方式は、充電器と充電対象の機器が数㎜以内の距離にあってこそ充電できるもので、伝送距離が短いというデメリットがあります。

磁界共鳴方式のワイヤレス給電は、電磁誘導方式と類似しますが、1~3m程度を給電範囲とする中距離用です。1、2次コイルの共振周波数を等しくすることによって、送信部コイルが生成する磁場と同じ共振周波数で設計された受信部コイルにのみエネルギーを伝達するようにした技術で、電磁誘導方式より電力伝送距離が長く、同時に複数の機器を充電できるというメリットがあります。しかし、この方式の最大のデメリットは、人体への有害性の有無がまだ完全に解明されていないことであり、規格は制定されましたが製品化には大きな進展が見られずにいます。

電磁波方式のワイヤレス給電は、数十kmまで伝送できる遠距離用で、送信部から電磁波を送ると、受信部はレクテナ(整流器付きアンテナ)を使って電磁波を受信し電力に変換する方式です。電線なしで遠距離の電力伝送が可能なため、遠隔無人システムや新・再生可能エネルギーの電力伝送に使用できます。しかし、この方式には人体への有害性という致命的デメリットがあるので、それを克服する一層の技術開発が必要とされています。